(5)海底修復に課題山積
干拓の是非で激しく揺れた長崎県の諫早湾。来年夏に完成する干拓地の沖合10キロ・メートルに浮かぶ船から、海砂が次々と海中に投じられ、水しぶきが上がる。
2000年のノリ不作をきっかけにできた「有明海再生特措法」に基づき、水産庁が実験的に行う海底の覆砂事業だ。
“ギロチン”と呼ばれた潮受け堤防の排水門を閉めて行った干拓により干潟が消えた海では、アサリやタイラギなど二枚貝の不漁が続く。有明海の調査を続ける元長崎大教授の東幹夫さん(水域生態学)は「干潟の消失に加え、海砂採取の影響も大きい」と指摘する。
諫早湾口で干拓地のための堤防造成に使う砂の採取が始まったのは1991年。周辺のタイラギ漁は翌年から激減、94年には壊滅状態になった。
東さんの研究チームによる97年の調査では、海砂の採取海域に幅25メートル、深さ4~5メートルの巨大な穴が連なっていた。穴には海水中の有機物が分解されてできる「貧酸素水塊」がたまり、有害物質の硫化水素が発生していた。「干潟の消失で潮流が弱まり、海水がかき混ぜられないため、硫化水素は拡散しない。魚は逃げ、貝は呼吸ができずに死ぬ」と東さんは説明する。
東京湾の最奥部、千葉市検見川沖でも、足かけ15年に及ぶ大穴の修復工事が進んでいる。千葉県が、航路維持のために湾内の別の場所を掘った土砂を使い、海底の穴を埋め戻している。
かつて東京湾の海底からも、大量の土砂が持ち去られた。港湾空港技術研究所の中村由行・沿岸環境領域長によると、戦後、京葉工業地帯などの埋め立てに使われ、その総量は1億2300万立方メートルに達する。
しゅんせつで生じた穴が多い海域は、青潮の多発海域と重なる。東京湾の場合、典型的な穴は自然の海底より20~30メートルも深い。東京大学大学院の磯部雅彦教授(沿岸環境学)の研究チームの観測では、東京湾でアサリが大量死した94年の青潮は、風の影響で沖から流されてきた水塊が穴にたまった硫化水素を含む無酸素の水塊を押し出した結果だったことがわかっている。
コンクリート骨材、あるいは埋め立て用土砂とするために海砂を掘り出した海底に、ほかの海域で採った砂を入れる覆砂事業には、もともと無理がある。「他の海を痛めつけて持ってきた砂を使うなんて。行政や業者の単なる『砂いじり』ではないのか」。長崎県でタイラギ漁をしていた元漁協組合長は吐き捨てた。
瀬戸内海の周防灘に面した山口市秋穂二島で5月下旬、漁業者や市民約50人が参加して、海草、アマモの房取りが行われた。房から種を取り出して海底に植え付け、アマモの群落を復活させる取り組みだ。
東京海洋大の藤田大介助教授によると、アマモは魚の産卵場や稚貝、稚魚の隠れ家になり、水質浄化機能に加え、波を和らげ、海底の砂をためる働きもある。
「アマモで覆われた海底にカレイやクロダイが泳ぎ、干潟に出れば、アサリもすぐバケツいっぱいになった。そんな昔の海を取り戻すのが夢」。毎年参加する元漁師の岩本和美さん(74)は遠くを見る目をした。
植え付けが始まった2002年に32ヘクタールだったアマモの群落は、昨年153ヘクタールに広がった。夏が終わった海で、ニラのような細長い緑のアマモがユラユラ揺れていた。(この連載は、西部社会部・玉城夏子、科学部・佐藤淳、編集委員・河野博子が担当しました)



























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