(1)トイレ進化 エコか浪費か
ブラッド・ピット、ジェニファー・ロペス、キャメロン・ディアス……。米国の生活技術誌「WIRED」は、日本で開発され、普及した温水洗浄便座の「上得意」として、ハリウッド・スターの名前を挙げる。
住宅設備機器メーカー「TOTO」は1989年に米子会社を設立、商品「ウォシュレット」の販売に乗り出した。今や米国内で年間2万~3万台を売る。
「お尻だって洗ってほしい」。日本で80年に発売されたウォシュレットは、こんな文句のテレビCMにより、売り上げを伸ばした。2006年度末までに出荷台数(累計)2300万台のヒット商品に。内閣府によると、温水洗浄便座の一般世帯への普及率は07年、65%に達した。
もともとは、医療用や手の不自由な人向けに欧米で開発され、60年代に輸入販売された。国産品は、住宅設備機器メーカー「INAX」が最初に開発し、発売。78年、TOTOで始めた開発に携わった重松俊文さん(55)(現TOTOウォシュレットテクノ社長)は「洋式が和式を逆転したころ。必ず世の中に受け入れられると思った」と振り返る。
温水洗浄便座の普及は、水の使用量を増やした。従来の一般的な水洗トイレの1回分の使用水量(大の場合)は13リットル。温水洗浄便座付きだと、洗浄水量(1分0・8リットル)がプラスされ、1回の使用水量は13・8リットルに増える。首都大学東京の小泉明教授(水環境工学)は「90年代後半から水洗トイレの使用水量が微増しているのは、温水洗浄便座の普及が一因」と推測する。
一方で、メーカー各社は「節水トイレ」の開発研究に力を入れてきた。現在は、洗浄1回に5・5リットルで済む商品もある。水玉を連射する方式で、お尻の洗浄水量が従来の2分の1で済む温水洗浄便座も登場した。こうした超新型でなくても、洗浄水が5・5リットルの節水トイレなら、温水洗浄便座付きで6・3リットル(5・5リットル+0・8リットル)で済む。久留島豊一・INAX環境戦略部長は「節水型トイレが普及すれば、使用水量は減る」と説明する。
他の水回り設備も節水が進む。例えば、手を差し出せばセンサーが感知し、水が出る洗面台の自動水栓。メーカー各社によると、ひねるタイプの水栓に比べて6~8割の節水になるという。
だが、エネルギー全体でみるとどうか。温水洗浄便座の場合、資源エネルギー庁によれば、使っていない時でも消費される「待機電力」を含め、家庭の全消費電力の3・9%を食う。
進化する日本のトイレは、果たして節水になるのか、水やエネルギーの浪費にすぎないのか。
無駄のない生活を提言している食生活研究家の魚柄仁之助(うおつかじんのすけ)さん(51)は「自動水栓、温水洗浄便座、どちらも使う必要はない」とバッサリ切って捨てる。「利便性があがるが、人間の適応能力が落ちる」
とはいえ、多くの人は、快適な暮らしがしたいし、それに慣れてしまっている。消費行動研究家の辰巳渚(なぎさ)さん(42)は「今や昭和30年代と同じ暮らしはできない。真の環境配慮を常に自分にも他人にも求めていては、息苦しい」としたうえで、こう力を込めた。「大切なのは、蛇口から水が流れっぱなしだったら気持ち悪いと思える心を持ち続けることです」(岡安大地)
最近のコメント