私なりのエコライフ
「環境」が世界を動かすキーワードとなった時代。市民もエコロジーを意識した生き方を迫られている。私たちはどうしたらいいのか。身近な生活から「エコ・ウオーズ」に参戦した先駆者たちの哲学と実践ぶりに、ヒントを求めた。
「新築や引っ越しなど、大きなお金を使う時は、環境を考えるチャンス」と話す池内了さん=神奈川県葉山町の総合研究大学院大学で
◆技術吟味型 生産法・寿命まで見極め 池内了さん(宇宙物理学者)
宇宙物理学者で総合研究大学院大学教授の池内了(さとる)さん(63)は約10年前、老朽化した京都市の自宅を建て替えた。太陽光発電や太陽熱温水器などの環境技術を満載し、雨水や井戸水も使う「エコハウス」の先駆けだった。
だがその生活は、とことん技術を追いかけるのとはひと味違う。むしろ技術や行動が「本当にエコかどうか」を厳しく見極める、「エコリテラシー」の姿勢だ。
太陽光発電では、太陽光パネルの製作に投入したエネルギーと、それが壊れるまでに生み出すエネルギーの差を計算。「10年使えば必ずプラスになり、火力発電よりクリーン」と確信して導入を決めた。テレビが故障した時は、液晶方式ではなくブラウン管に買い替えた。技術が確立され、長持ちの実績があると判断した。
「エコ」をうたう商品が次々と売り出されていることにも、疑問を持つ。「それが浪費につながっては意味がない。商品に生産エネルギーを表示する制度を設けてはどうか」と提案する。
エコリテラシーの目を持ち、エコハウスで暮らせば、気づくことは多かった。太陽光の発電量や使用量を示すメーターに自然と目がいく。電話、電子レンジ、温水洗浄便座。待機電力だけで電気使用量を押し上げるものがあふれていた。浪費が気になり始め、水道、ガスと節約の範囲は広がった。専用機械で生ゴミを処理すると、ゴミも減らすしかなくなった。「電力は電力会社、ゴミ処理や水道は自治体。何でも『お任せ』だから、見えにくくなっていた」
技術だけでは補えないこともある。自宅の天井は吹き抜けにし、化学物質を使わない断熱建材を採用したが、京都の暑さ寒さは厳しい。夏は汗をかき、冬は着込むのを基本にした。「環境のために大事なのは、できるだけ人間のエネルギーを使い、自分で責任を負うこと。自立することです」
次は食生活も自前にしようと、野菜作りに挑戦している。
「都会でできるエコ生活」を実験中というマエキタミヤコさん。自宅の屋上を緑化している=東京都世田谷区で
◆情報発信型 ブーム作り社会動かす マエキタミヤコさん(コピーライター)
夏至と冬至に2時間ずつ消灯する「100万人のキャンドルナイト」、食料を輸送する際に排出される二酸化炭素(CO2)量を考えようという「フードマイレージ」。注目を集める環境キャンペーンの陰には、コピーライターのマエキタミヤコさん(44)がいる。
コンピューターからスナック菓子まで、様々な商品の広告を手がけてきた。だが、ちょっとデザインを変えただけの車やレコーダーを、大げさに「新商品」として宣伝することが増えた。「それがどうしたっていう物ばかり。それより、環境とかエネルギーとか憲法9条とかがどうなるかの方が、みんな気になっているんじゃない?」
行き詰まりを感じていた十数年前、日本自然保護協会の宣伝を頼まれた。評判が伝わり次々と環境NGOから依頼が来た。数々の異変、自然破壊。「えっ、そんなこと知らない!」という連続だった。
被害を受けるのは決まって過疎地で、情報も文句を言う人も少ないところだ。「環境問題は、民主主義が機能しにくい場所にシワ寄せがいく」。実態を知るNGOや市民の発信力を高める必要性を感じた。
02年、NGO広告を手がける制作者集団「サステナ」を立ち上げた。諫早湾干拓の弊害を知らせる教育ビデオは映画監督が編集し、人気ミュージシャンが曲をつけた。米軍普天間基地の移設問題では、東京のファッションビルでジュゴンのTシャツ展を開き、自然保護の資金を集めた。「環境は問題がシビアなので、説明まで難しくなっていた。チャーミングに伝えるのがポイント」
環境キャンペーンは、例えば「クールビズ」のように、「これをやりなさい」とお上(かみ)から呼びかけるものになりがちだ。「情報を受け取るだけでなく、思いを発信し、話し合うべきだ」と説く。ブームを起こして、逆に政府や大企業を動かせばいい。「大きな仕組みに口を出す。これもエコな生き方です」
「各国のCO2削減はサッカーのW杯以上の競争になっている。生活さえ転換すれば、日本はトップになれる」と話す高城剛さん=東京都渋谷区で◆リセット型 様子見はダメ、挑戦して 高城剛さん(映像作家)
デジタル技術を駆使した音楽映像やインターネット上の仮想都市の制作で知られる映像作家の高城剛(つよし)さん(43)は、ファッション誌で成果を連載したことがあるほどの「買い物魔」だった。それがこの1年半で、自宅と倉庫にあふれる荷物を徹底処分した。10万冊の本と雑誌、流行の洋服、デジタルグッズ……。削減率は90%、段ボール千箱分に及ぶ。
きっかけは、01年9月11日の米同時多発テロ。ネットのバーチャルな世界にひたっていたのが、現実世界に目を向けるようになる。パリ滞在中の03年には、熱波で人がバタバタ倒れる様を目の当たりにした。異常気象で食糧難もありうる時代。「ITのトンネルを抜けると、雪が降らないヤバイ世界になっていた。流行商売やってるのに、環境に関心を持たない自分じゃカッコ悪いでしょ」
問題は大量消費と便利すぎる社会と見定めた。「自宅の徒歩圏内に同じ系列のコンビニが8軒。こんなにいらない」。毎日車で乗りつけていたのを週1回にし、必要なものしか買わないようにした。愛車ポルシェは駐車場に置き、移動は地下鉄とハイブリッド車中心に。生活をリセットしてみた。
その先、スローライフや質素な生活を目指す人もいる。しかし「あれは優等生向き」だと高城さん。「僕みたいな(大量消費)中毒患者でも、リハビリできる新しいスタイルが必要だ」。実験中なのは、北海道や沖縄などにも生活の拠点を作り、東京と往復する生活。都会で夜遊びを楽しみ、田舎で自然を満喫する。「日本は交通やITのインフラは隅々まで整っているし、地方の家賃は安い。この利点は生かさなきゃ」。異常気象に対応するためにも、1カ所に定住しない生き方が「現代的だ」という。
子育て世代、高齢者、独身。人によって状況は違う。「トライ&エラーを繰り返し、自分に最適なやり方を探すべきだ。何が正しいかはわからない。でも、様子見の態度だけは通用しない」
◆アメリカでは シリコンバレー、やさしく変身中 自転車通勤で食券支給・CO2排出ゼロオフィス
IT産業の一大拠点・米国カリフォルニア州のシリコンバレーが、環境にやさしいライフスタイルの発信地として生まれ変わろうとしている。ここで働き、暮らす人たちを動かしているのも、「できることからやってみよう」という発想だった。
06年に具体化した地域の「クリーン・アンド・グリーン」構想を仕掛けたのは、ヒューレット・パッカード、グーグルといった地元企業やスタンフォード大学などの連合体だ。自治体やNGOと協力し、いろんな角度で環境問題と向き合う。
たとえば、約2100人が働くIT関連の「ジュニパー・ネットワークス」本社は、自家用車に頼らない通勤への徹底した応援で知られる。
自宅からほぼ毎日、20分かけて自転車で通うジョン・キーンさん(45)は、出社するとまず1階で「自転車通勤者カード」にスタンプを押してもらう。10ある枠が埋まると、社内のカフェで使える食券20ドル分がもらえる。「健康にもいい。車通勤する理由がないよ」
自転車置き場は社内のあちこちにあり、シャワー室も完備。担当部長によると、社員アンケートで「病気などで急に帰宅する際は車でないと不便」と思っている人が多いとわかり、緊急時はタクシー券を支給することにした。
自転車では遠すぎるという人には、何人かの社員で通勤の車をシェアする調整もする。電車通勤者には、電車の遅れなどをメールで流す。
社内で日常的にこうしたやりとりがあることで「『地球に健康でいてもらう』ため、それぞれが無理のない範囲で何かしよう、と感じることができる」と、キーンさんは話す。
日系3世の建築デザイナー、デビッド・カネダさん(49)は07年夏、太陽光発電を用い、化石燃料に頼らない「CO2排出ゼロ」の2階建てオフィスを完成させた。大きな窓から採光し、断熱材を入れて、温水を巡らせる。人が離れるとパソコン、コピー機の電源は自動的に消える。
14人が働く小さな事務所。ここで減らせるCO2の量など知れている。でも「『やればできる』と知ってもらい、みんなのライフスタイルが変わるきっかけになれば」とカネダさん。「建物を見せて」と訪ねてくる人たちは大歓迎だ。
NGO「持続可能なシリコンバレー」事務局長のリック・ロウさんは言う。「この街は、常に新鮮なアイデアを生み育ててきた。環境と共存する新しい暮らし方も広がっていくでしょう」
Asashi.com
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