(5)芝生はがし680億リットル節約

赤茶の砂と岩の風景。グリーンがポツンと残る。客を乗せたカートが、土ぼこりを上げて走り過ぎた。
砂漠の真ん中にある米ネバダ州ラスベガス市。市内最大のゴルフ場「エンゼルパーク・ラスベガス」で、芝生をはがす作業が行われていた。「ゴルフ場ができる前の自然の姿に返すのです」とコース管理責任者のビル・ローレットさん(55)は説明する。グリーンやフェアウエーなどは残すが、芝生全体の3割が今年中に消える予定だ。
きっかけは、地元の水道事業者「南ネバダ水組合」が9年前に導入した芝生除去奨励策。住民や企業が芝生を取り除くと、芝1平方フィート(930平方センチ)あたり1ドルが支払われる。奨励金は改修費用に消えるが、芝生が減る分、水道代だけで年20万ドル(2100万円)を節約できる。芝の手入れに必要な人件費、肥料代なども減らせる。
水組合職員のトム・ブラッドリー・ジュニアさん(45)の自宅の庭には、赤茶色の土が敷かれ、紫や黄色の花々が咲く。どれも水やりがほぼ不要な砂漠の植物。2006年夏、芝80平方メートルをはがして水組合から約900ドルを受け取り、1万5000ドル(160万円)もかけて庭を造った。「ランタナやハイビスカスが春に一斉に咲くときれいなんだ」と目を細めた。
水組合によると、奨励策導入後8年間で、芝生計9平方キロが消え、東京都民が使う水の16日分に当たる681億リットルが節約できた。
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芝生が問題視されるのには、わけがある。全米水道事業協会が99年、12都市の1100世帯で水の使用量を調べたところ、59%は芝生の水やりやプールなどに使われていた。
「米国人は、カーペットのように美しい緑の芝生にこだわる。その強迫観念を今すぐ変えないと」。南ネバダ水組合のパット・マルロイ代表(54)は、危機感をあらわにする。
市から60キロ東にある同市の水がめ、ミード湖は、コロラド川の流量減の影響で、琵琶湖の1・3倍あった水の量(352億トン)がこの8年間で半減した。
水組合は「水浪費捜査官」も導入した。
「この家は明確な違反だ」。捜査官のフランシス・レイエスさん(24)が、車の運転席から指をさす。一軒家の庭で、スプリンクラーが回っていた。
冬のラスベガスで庭の水やりが許されるのは週1回、12分のみ。曜日が決まっている。レイエスさんは、ビデオ撮影の後、「水の無駄遣いは禁止」と書かれた紙に日時を記入、ドアの取っ手に引っかけた。違反が2回以上続けば、最高2560ドル(27万円)の罰金が科せられる。
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カリフォルニア州の州都サクラメント市は、市憲章で「家に水道メーターを取りつけてはならない」と定めている。水道料金は使用量に比例しない定額制。水道料金は18~30ドルの4段階で、部屋数に応じて違う。
背景に、シエラネバダ山脈の雪解け水に恵まれたサクラメントと南の都市との対立の歴史がある。使わない水は水路を南へと流れる。「南にやるくらいならここで使い切ろう、という発想」(市当局)があった。
カリフォルニア州で04年、水使用量に応じて料金が決まる従量制を取り入れ、各世帯へのメーター設置を義務づける州法が成立。州法は市憲章に優先するため、サクラメント市でも水道メーターに基づく料金徴収が2年後に始まる。
水使用量が世界有数の米国で、水の大量消費の時代が終わろうとしている。
「小」に「大」は無駄2リットル
「水がもったいないから、我が家では当たり前なんです」。東京都小金井市の主婦、横山智恵さん(34)は淡々と話した。
夫と子供3人の5人暮らし。毎朝、出勤や登校前に込み合うトイレは、まとめて皆の分を流す。汚れの著しい衣類は、入浴時に洗面器で手洗いする。使った食器は、台ふきんをゆすいだ水につけてから、食器洗い機へ。3年前に家に雨水タンクを二つ付け、庭の水やりなどに使っている。
故郷の宮崎県綾町には、わき水が点在する。「母が水を守る運動に取り組んでいたので、水を大切に使う気持ちが身についた」と智恵さん。昨年末に払った上下水道料金(2か月分)は7060円、上水使用量は月1万9000リットル。東京都による1人1日当たり平均水使用量から計算した月5人分3万6000リットルに比べ、53%と格段に少ない。
京都市左京区の府職員、安田勝さん(50)宅では、車庫の地下にある2トンと1トンの雨水タンクからくみ上げた水をトイレに送り、洗車、庭の散水にも使う。使う水量は、6人家族で月に2万リットルに抑えられている。
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経済ジャーナリストの荻原博子さんは「原油や金属など資源価格が上がり、食品や日用品が値上がりしているが、給料は上がらない。燃費の良い車のように、省資源型の商品でないと売れないという流れは止まらない。節水は、当たり前になるだろう」と言う。
しかし、暮らしの中で何をすればよいのかわからない、というのも実情だ。
住宅設備機器メーカー「INAX」による意識調査(1550人対象)で「家で一番水を多く使うのはどこだと思うか」と聞いたところ、1位は風呂で、洗濯、炊事が続いた。東京都の実態調査などで水使用量が一番多いトイレを挙げた人は少なかった。
日本トイレ協会の上幸雄(うえこうお)理事長によると、1回のトイレで実際は「小」なのに「大」で流すと、2リットルの水が無駄になる。
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一畳ほどの大きさの石造りの水槽が3層になった「水舟」に、わき水が音をたてて流れる。岐阜県郡上市八幡町。主婦松森久子さん(76)が、夕食の鍋料理に使う白菜やニンジンを洗いに来た。自宅に水道があるが、「何より気持ちいい」ため、つい水舟に足がむく。ご飯を炊いたり、お茶を飲んだりするのにも使う。
小道沿いなどにある水舟は、上段は飲用、中段はゆすぎ、下段は野菜や食器洗いに使う。その後は、集落の防火水槽に流れ込む。山のわき水を上手に使う昔ながらの「再利用」だ。
わき水は全国に1万2791か所。それを賢く使ってきた例はほかにもある。
生産工程で使う水を処理して再利用し、水の使用量を減らした企業が増えている。サントリーは、製品1キロ・リットルの製造に使う水の量を、1990年比で47%減らした。昨年完成した工場では、タンクのすすぎ用に使った水を浄化し、タンクの洗浄前の下洗いに再利用するなどして、使用量が従来の半分になった。
商業、公共施設での再生水や雨水の利用も広がる。2005年度末には、全国約3000か所でトイレの洗浄水などに使った。
しかし、NPO・雨水市民の会の村瀬誠事務局長は「まだ少ない」とし、こう指摘する。「今後、渇水が心配だが、ダム造成には金と時間がかかり問題も多い。雨やわき水など身近な水源の見直しが必要だ」

























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