(4)「貴婦人」集う田を守る
頭上にツンと伸びた冠羽(かんう)。太陽光の加減で緑、紫とメタリックな輝きを放つ羽……。毎冬、シベリア方面から日本各地にやってくるタゲリは、その容姿と、稲刈りの済んだ田んぼで虫やドジョウなどを食べる習性から、「田んぼの貴婦人」と呼ばれる。
2月10日、その姿を一目見ようと、50人余りが神奈川県茅ヶ崎市のとある駅に集まった。地元の自然保護団体「三翠(さんすい)会」(森上義孝代表)が、農家と協力して売り出した「湘南タゲリ米」を購入した人たちだ。
駅前から住宅街を抜けると水田が見えてくる。自動車バイパスや建設途中の首都圏中央連絡自動車道(圏央道)などに囲まれ決して広くはないが、タゲリは田んぼの上をミュー、ミャーと子猫のように鳴きながら飛び交っていた。
兼業農家で三翠会メンバーでもある鈴木国臣さん(65)が語る。「神奈川は東京のベッドタウン。稲作だけでは食べていけないので、宅地用などに農地を売る農家が増えているんです」
実際、1989年に113ヘクタールあった茅ヶ崎市の水田は、15年後には61ヘクタールに。全国の耕地面積も減る一方だが、都市近郊はさらに加速度を増す。
神奈川県へのタゲリ飛来数も、2000年の65羽から06年には18羽に。絶滅寸前の生き物を記した06年発行の県レッドデータブックでも、それまでの「減少種」から「絶滅危惧(きぐ)種」に格上げされ、切迫感が募る。
危機感を背景に、三翠会が01年から販売し始めたのがタゲリ米。「5キロ・グラムの米を買っていただくと8畳分の田んぼが守れます」と、メンバーの樋口公平さん(42)。農薬や化学肥料は極力控える。タゲリのエサ確保のためだが、使う農家も食べる消費者も安心感が増す。価格は送料込みで5キロ・グラム3500円。恐る恐る魚沼産コシヒカリ並みに設定したところ、三翠会の“意気”が買われ、飛ぶように売れた。協力農家も当初の5軒から23軒に増えた。
「この地区の神社のおみこしには鳳凰(ほうおう)が載っていて、そのクチバシに地元で育てた稲の苗をつけるのが習わしです」。鈴木さんは見学者にこんな話をした。田んぼを守ることは地域文化を守ることでもある。
◎
タゲリ米には、モデルがある。霞ヶ浦のほとりにある茨城県江戸崎町(現・稲敷市)の「オオヒシクイ米」だ。ガンの仲間のオオヒシクイにとって、江戸崎町の田んぼは関東地方に唯一残る越冬地だが、飛来数は100羽を切る。しかも2か所ある越冬地のうち一方の田んぼは圏央道が通る予定になっている。
「越冬地を何とか守ろうと、採れたお米を1997年から買い取っています」と、ヒシクイ保護基金事務局長の西村静江さん(61)。地元農協に協力を依頼したが断られ、土地改良区で開かれていた会議に予約もなく飛び込んだら、専業農家の坂本春雄さん(70)らが快諾してくれた。
農薬散布は極力避け、水田の雑草や二番穂を食べるオオヒシクイのため、農家には3月上旬の渡りまで田起こしを待ってもらう。協力農家は現在8軒。年平均7トンを買い付け、全国の賛同者に5キロ・グラム3500円で直送する。
残った越冬地だけは決して転用されないよう、西村さんたちはこれからも米を買い続ける。「国内最大のガンの越冬地だった関東地方を、かつての風景に戻したい」。江戸崎は、その夢をかなえる足場だからだ。
〈全国の耕地面積〉 2005年は469万ヘクタールと、ピークだった1961年から23%減。95年以降は耕作放棄による減少が、住宅や公共施設向けの転用による減少を上回る。05年の耕作放棄地面積は、東京都の面積の1.8倍に相当する38万ヘクタール。
























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