
関東地方の市立火葬場。火葬中を示す炉の赤ランプが消え、ひつぎの載っていた台を、背広姿の職員が引き出した。灰に交ざった頭骨の内側の一部と、大腿(だいたい)骨の端が、うっすら緑色に染まっている。施設長の男性職員(55)は「全体が濃い緑色をした骨も、時々目にします」と言う。
火葬された骨が緑、ピンクなどの色に染まるのはなぜか。関西医大教授(法医学)の赤根敦さん(46)はそう聞かれたことが数回ある。その都度、「リューマチなどの治療に使われる抗生剤により、骨が青く変色することがある。その色が火葬後も残るかどうかはわからないが」と説明した。
関東火葬施設事業協同組合発行の「近代英国火葬史」(1981年刊)は、英国での四つの講演録を収めた。「火葬骨灰に生ずる色の意味するもの」という題の講演録は、人骨中の金属の影響を示唆している。
「緑色は(火葬)件数の1%に発生して、鉄または鋼によるものと思われる。ピンク色は件数の15ないし20%に生じ、銅によるものである」「鉄、銅などはすべて通常の骨に見いだされる」。鉄や銅は食物を通して体内に入るほか、金属を扱う工場で働く人が作業中に取り込むこともある。
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火葬された人骨に含まれる有害物質を調べた、珍しいデータがある。
NPO法人「りすシステム」(事務局・東京都千代田区)代表理事で、僧職の松島如戒(にょかい)さん(69)は昨年、遺族の承諾を得て、ともに70歳代で亡くなった男女1人ずつの遺骨の分析を環境省の指定調査機関に依頼した。すると、水銀、鉛、カドミウムなどの重金属を始め、11種類に反応があった。
中でも松島さんが驚いたのは、除草剤などとして使われているシマジン、チオベンカルブ、チウラムも、「灰を溶かした試液1リットル中0・0003ミリ・グラム未満」とごく微量ながら検出されたこと。鉛などがもともと自然界に存在するのに対し、いずれも化学会社が開発した物質。火葬場などで骨に付着した可能性も排除できないが、遺骨から検出されたのは事実だ。
りすシステムは、葬儀や自宅の後片づけなど、死後に必要な手続きを遺族に代わって行う「生前契約」サービスを始めて13年になる。遺灰を山や海にまく散骨を希望する人もいて、ニュージーランドなどで実施してきた。松島さんは「遺灰が土壌を汚すなど地球環境に負荷をかけていないだろうか」と気になっていた。
長期間にわたる闘病で“薬漬け”になった遺体は少なくない。まして人骨は臓器に比べ、有害化学物質が蓄積しやすいといわれる。骨つぼに納められなかった骨を含む残骨灰の処理には規制がなく、そのまま埋めているケースもあるという。松島さんは「環境汚染を防ぐために、遺骨についてもっと詳しい研究がされるべきだ」と思う。
現代の葬送事情に詳しい第一生命経済研究所主任研究員の小谷みどりさん(37)は「死は生の集大成。こうした物質が人骨から検出されている事実は、今という時代を投影している。私たちの生活様式や価値観を見つめ直すよう教えてくれているのでは」と話す。
「死んだら土に返る」といわれ、自然の循環の一部である人の体。いまや分解に時間がかかるものも含まれ、葬送風景までが再考されなくてはいけないのかもしれない。
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